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エドワードはずずっと音を立てて珈琲を啜った。 珍しくの家に来たと思ったら、ずっと眼鏡を掛けて新聞を読んでいる。 は何も言わずただその様子を同じく珈琲を啜りながら眺めていた。 「ねぇ、久しぶりに来たんだからさ、何か話してよ」 「えー。何かって何だよ」 「…例えば旅の話とか」 「却下」 そう言われ、は頬を膨らませた。 だが何も言わなかった。こう言ったエドワードはちょっとやそっとの事じゃ言わないからだ。 それをは心得ていた。 「いいよねー、エドは」 「どこらへんが」 エドワードはあっさりと返事を返してくる。 新聞を読んでいても一応耳に入っている、というのはには分かっているのだが、 何故か寂しい気もした。 はまたずずっと珈琲を啜る。 「だっていろんなところに旅してるしさー」 「危険だらけだぞ」 「それでも、気分が晴れるじゃない」 「気分、ねぇ…」 一瞬考えたような素振りをしたが、エドワードはすぐに新聞に目を移した。 そして、またに小さな孤立感を与えた。 「いいよねー。何でも出来る人って」 「はぁ?」 「だって、エドは頭もいいし運動もできる」 「それが何」 「私が欲しいもの全部持ってる」 の瞳はエドワードの瞳を真っ直ぐと見つめ、沈黙が流れた。 「何でも出来て、何でも持ってるね」 「エドはずるいなぁ」 彼女はそう言うとまた珈琲を音をたてて啜った。 エドワードは瞳を細め、ただを見る。 エドワードは視線を落とし、新聞を置いてソファから離れた。 の正面に座ると、は不思議そうな顔をしエドワードを見た。 「本気で言ってんのか」 そっとの頬に自身の手を這わせた。 堅い右手が柔らかい頬を包む。冷たい手と暖かい頬の温度差は大きかった。 「俺は、俺が欲しいもの全部持ってるって、本当に思ってんのか」 その瞳は突き刺す氷のように冷たく、影を持っていた。 だが、声が不安定なのは、彼女の思い過ごしなのだろうか。 「俺が本当に欲しいものは、」 エドワードは彼女の唇を冷たい親指でなぞった。そして彼女に口付けをした。 050313)アシンメトリー・おわり 彼が本当に欲しいものは自分と非対称の彼女、という事を彼女は知らない。 |