確 信 犯  















彼は、私の唇も心も

一瞬のうちに、気付かぬうちに奪っていった。















今日も、仕事を終えてここ最近毎日通っているバーに行った。店内はバーというだけあって 照明が暗い。BGMにジャズが流れていて、こじんまりとしてるがなんというか大人、な感 じだ。私はいつもすわっているカウンターの端っこに腰を下ろした。

「今日は、何にします?」
「おちゃめな感じで」

マスターは少し笑いながら『かしこまりました』と言って、カクテルを作り出す。ちょうど その時にカランと音がして店のドアが開いた。またあいつだ。

「また会ったね、 ちゃん」
「どうも」
「隣りいい?」
「駄目って言っても座るんでしょ」

そう言って男、エンヴィーはにぃっと笑い私の隣りに腰を下ろした。その時、カクテルが出 来上がったようだ。『おちゃめ』をテーマにしたカクテルはレモン色とオレンジ色の中間ぐ らいの色だ。カクテルグラスをそっと持って口に運び少量含んだ。味は柑橘系で色もテーマ もぴったりだった。

「ご注文承ってよろしいでしょうか?」
「あぁ、僕も彼女と同じので」
「かしこまりました」

エンヴィーは私と同じのを頼んだ。他の頼めよ、とか思ったが口にしなかった。

「最近、あなたよく来ますね」

するとエンヴィーは私の隣りに腰を下ろした時のように笑って、

ちゃんがいるから」

そう言った。店内は暗くて色ははっきりわからないが、目を見るとエンヴィーの目は深みを 帯びた目で私を真っ直ぐに見据えた。吸い込まれそうなぐらいに。

「冗談はやめて」

目をそらしながら軽く笑って受け流す。口の中が少し乾いたような気がしたので、一口カク テルを口に含む。

「つれないなぁ、 ちゃんは」
「当たり前です。いちいち冗談を本気にしたって意味無いでしょう」
「冗談だなんて、俺は本気なのに」

その言葉に、その目に、不覚にも少しばかり心を打たれた。こんな言葉一つで心を動かされ る私はなんて尻軽な女なのだろう。不覚だ。今、私はどんな顔をしているのだろうか。店内 が暗くて良かった。何秒たっただろうか、私とエンヴィーはずっと目をそらさずに見つめ合っ ていた。というかそらせない。私は今どんな顔をしているのだろうか。少なくとも笑ってはい ない。そしてエンヴィーは、私の反応を見て楽しんでいるように見えた。すると、エンヴィー は少し身体を寄せてきて何かをねだる甘えた子供の表情をして言った。

「ねぇ、返事聞かせて」

「俺を好きかどうか」

絶対話ずれてる。そう思ったけど何故か私の身体は言葉を発せずに、手に持っているカクテ ルをただ見ていた。別に好きなわけじゃない、照れているわけでもない。多分。すると私は 何を思ったか、急に立ち鞄を持った。

「マスター、ご馳走様。いくら?」
「…ちょっと、どこ行くの ちゃん。まさか帰る気?」
「はい」

それだけを言って私はレジに向かった。

「…、手放して下さい」
「やーだ」

手を掴まれたが、振り返らない。きっと今私は凄く赤い。

「マスター、俺が後で払いますんで…大丈夫です」
「ちょっと、何言って…」

振り返った時あまりに瞬間的なことで何が起こったか理解できなかった。ただわざとらしい “ちゅ”という音がした。今、キスされた。そしてエンヴィーは唇を放す時に舌先で私の下 唇を舐めていった。

「い、今…」
「キスしちゃったねぇ」

わざとらしくそう言って、まるで他人事のように笑っている。

「…私の気持ちは、関係無しなんですか」

口を手の甲でごしごしと拭いたけど、感触が、まだ残っている。消えて、消えろ。 顔が、唇が、手の甲が、私の身体全部が熱い。きっと顔は赤いんだ。だからエンヴィーは笑 っているんだ。

「してほしかったんでしょ?」
「冗談じゃない。…誰が…」
ちゃんは正直じゃないなぁ」
「っ…」

「俺の事好きなくせに」

何、言ってるのこの人は。私がエンヴィーを?

「あらら〜図星?」
「それはあなたでしょう!」

するとエンヴィーは一瞬だけあっけにとられたような顔をしたが、すぐに切り替えてにぃっ と笑った。

「あたり」

「そして ちゃんも俺の事好きだよね」
「…いつから…っていうの」

私はうつむいて、何かにすがるかのように呟いた。多分今、彼は、エンヴィーは笑ってる。 私は彼の思惑にはめられた。

「俺と初めて会ってから、俺の事しかみてないでしょ」

「ま、それは俺にもいえるけど、さ」

“やばいどうしよう”それしか頭に無かった。

「…それ…ほんと…?」
「うん。本当だよ。だってそうでしょう? ちゃん」

そこで初めて彼の顔を見た。はじめて見た、彼の優しい笑顔。

ちゃん、泣きそうな顔してる」
「…っるさい…」

そして彼はまた私の唇を奪おうとしたが、それを手で静止した。

「皆、見てます…」
「いいじゃん」


そう言って、私の頬を手のひらで優しく包んで引き寄せた。もう片方の彼の手は、私の腰に まわっていて、離れられない状況。離れる気は、ないけど。そして重ねるだけのキスを交わした。



「じゃ、続きは外でしようか」

私が答える暇も無く続けてエンヴィーは言った。

「ここまで俺をその気にさせといてまさか帰るなんていわないよねぇ。 ちゃん♪」



彼は、私の唇も心も一瞬のうちに、気付かぬうちに奪っていった。 そして次は身体をも奪う気らしい。


私は見事に彼の思惑と、彼にはまってしまったのだ。

一瞬のうちに、気付かぬうちに。











うちのエンヴィーはエロいですよ。下心丸出し。
そういう彼が私は好きだ!!(ぉぃ)つか、めちゃくちゃ話が適当っぽい…。

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