台所から漂ってきたと思われる紅茶の匂い。 「紅茶でいいかい?」 「あ、うん、はい」 「そんなに堅くならなくてもいい。それよりしっかり髪を拭いておきなさい」 振り向かずに戸棚からカップを出している後ろ姿を見ていると何故か母さんを思い出して 、少し、息が詰った。 「あの…」 「何だい?」 「シャワー、有難う御座います…」 「気にするな。あのままだと風邪をひくだろう」 そう言って彼は振り返った。彼はさっきと同じで優しい声で微笑んでいた。何でこの人は微笑んで いるんだろう。私にはわけが分からなかった。 それにしても、この広い部屋、豪華な家具達、タオルから香るいい匂いといい、十分に分かる。 この人がそこそこお金には困っていない人間だという事が。 no.2 彼 目の前に置かれたティーカップはシンプルなデザインで、そこらへんはやっぱり男の人の家、 というのが頭に浮かんだ。わざわざ紅茶の葉を取り出していれてくれたのかは知らないけど、 微かに香る紅茶の匂いは心地良かった。 「…本当にすみません。何から何まで」 「たまたま通りかかったんだよ。それに…」 「……?」 「泣いているお嬢さんをほっとけないしな」 そう言って彼はふふっと笑った。瞬時に顔が熱くなっていくのが分かって、 余計に恥ずかしくなってきた。 「……雨のせいです」 「まあいい。それにしてもあの雨の中傘を差さずに寒かっただろうに」 「……」 何も答えずにただ紅茶を啜った。答えずに間を保つ方法が分からなくて、そこらへんにあった 砂糖やらミルクやらを紅茶に入れてスプーンでぐるぐると回しつづけた。 それを見ていると目が回ってくる。 「聞いてもいいかな?…何故、あそこに居たんだい?」 「……」 このミルクティーの濁った色のように私の心内は汚くて、回転していく液体のように私の中のほんの一部の電子回路 は複雑に絡み合っている。そして質問の答えはそこにある。 「無理に答えなくていい。とにかく今日はゆっくりしていきなさい」 ふと彼の顔を見ると、私が口を閉じたままだったのでいけない事を聞いてしまったと思ったのだろう、 表情がとても申し訳なさそうだった。その顔を見てしまった私はたまらなく彼より申し訳なくなった。 すると彼はまたふっと笑って台所に向おうと立ち上がって背を向けた。 「名前」 「…は?」 「教えてよ…」 「…ロイ・マスタング」 私は椅子から立ち上がって彼に近づいた。 「私は・。ねぇマスタングさん、お願いがあるの」 彼の黒い瞳だけを見て言った。だって彼は悪い人ではないと思うから。 だってそうでしょう?あんなに優しく微笑むんだから。 「私をここに泊めて」 恋愛感情など無い。ただ、私には帰る場所なんてないから。 ただ、それだけ。 続 05/01/31 みみみみ短っ!!というか急展開?久しぶりの更新でございます。またまた、いい具合に次が気になる 感じになっているだろうか。 次回ぐらいに主人公の過去でもやろうか。うん、暗い過去…!!(何で文章おかしくなるんだろう。 |