甘党な彼、彼女の悪戯(チョコレート編) 「…ね〜、聞いてる?」 「聞いてる」 「嘘。絶対聞いてないねちゃん」 「聞いてるよ」 そう言うと、エンヴィーは可愛らしく頬をふくらませた。 ちゃんと話聞いてるのに。何でこう何度も繰り返すのだろう。 テレビのチャンネルを変えながら言ったのが効果がなかったのだろう。 それとも目を見て話を聞かなかったのがいけなかったのだろうか。 いずれにしても、話はちゃんと聞いている。エンヴィーは甘いものが好きなんでしょ? 「じゃあ、僕の好きなもの分かる?」 「チョコレートでしょ」 「なんだ、聞いてたの」 「だから言ったじゃない」 もう三回は聞いた。覚えてるに決まってるじゃない。 中でもチョコレートが一番だねっ、と嬉しそうに語るその姿が視界に入っていた。 「……何見てんの」 「作って」 「無理」 「作ってー」 「私さ、すっごい料理下手なんだ。だからお腹壊すよ」 「嘘。この前のちゃんの手料理絶品だったもん」 キラキラと輝きを帯びた瞳が私を見つめる。 これを例えるのならばチワワだ。ほらよくCMである『ア●フル』で登場するチワワ。 瞳がうるうるしていて、キラキラしていて、なんというか母性本能というやつが くすぐられる、というのだろうか。 「……、…しょうがないなぁ…」 「やたー!!」 「さて、と…。作らなきゃな」 午後4時、台所。 台所に先刻買ってきたばかりの材料を並べる。 エンヴィーは『また後で来るね』と言ってあっさりとどっかに行ってしまった。 チョコレートなんて作るのは何年ぶりだろうか。前の彼氏の時は手作りなんてしなかったし、 お菓子系はいつも買っていた。 ハートの型でデコペンか何かで『LOVE』とでも書いとくか? …そんな気持ち悪い事できない。今さら私が『LOVE』だなんて。エンヴィーに笑われそうだ。 いや、逆に喜んだりして。…『LOVE』で? そんな事を考えていたが、やはりやめた。だってバレンタインデーでもないのに、 恥ずかしすぎる。 台所に並ぶトリュフ達。自分で言うのも何だが、大きさは整っているし、味見したけど おいしかった。これは全部が完璧だと思う。いや褒めすぎか。 これでエンヴィーも満足するだろう。 「わー。本格的につくっちゃったねぇ」 「何その言い方。おいしそうでしょーが」 そう言うと、嬉しそうに笑って一つトリュフをつまんで口に放り込んだ。 ごくりと飲み込むやいなや、次々とつまんでは口に放り込んでいった。 その姿は無邪気な子供のように可愛らしかったが、二十個もあったトリュフが もう無くなってしまった。 「(もっと味わって食べろよ!) 「……う〜ん、食べたんないなぁ」 「え、いっぱい食べたじゃない!?」 「…いや、もっと別のが食べたいんだよねぇ」 「はぁ?我が儘言わないのー」 晩御飯と言っても、まだ準備するには早すぎるし。 第一、頑張って作ったのにもっと褒めてくれてもいいじゃない。 「あ、ちゃんほっぺにチョコついてる」 「へ?…あ、ほんとだ」 頬に触れると指先にはチョコレートがついてきた。 すると、エンヴィーがその手を捕って、 「…そうだな、ちゃんでも食べようか」 指先に生暖かい感触。エンヴィーがチョコレートが着いた部分をぺろりと舐めた。 そして180度変わる景色、丁度よくクッションの上に頭が乗っかった状態。 エンヴィーの背後に天井が見える。 「…エンヴィー、ふざけないで」 「そんな真っ赤な顔で言われてもねぇ…」 突然の事態に平静を装うが顔に出ていたらしい。どうりで顔が熱いと思った。 綺麗に笑みを作る口元とは対照的に彼の瞳は獲物を見る目だった。 するとエンヴィーは思いついたように笑って熱い頬にキスをした。 身体中を駆け回る血液が一瞬活動を止めたかのように私の身体は蛇に睨まれた蛙状態。 ようするに動けないわけだ。 「そうだなぁ…、特別に僕の好きなもの、も一個教えてあげる」 またふっと笑う仕草が私を虜にさせる。次に出てくる言葉、それはとても簡単に予想がつく。 彼の言いそうな事。そしてそれは私も同じで、 「ちゃんだよ」 勿論、あなたが好きよ。 じゃないとわざわざ面倒くさいのにチョコレートなんて作ってやるものか。 首筋に触れた唇がなんだがとてもくすぐったくて、笑ってしまった。 「色気が無いなぁ」 「るっさい。ちゅーしてあげるから、文句言わないの」 甘ったるいチョコレート臭がする部屋に、映画の中のワンシーンのようなキスの 水音が響いていた。 よく考えれば、エンヴィーはチョコレートを食べた上に私までも食べようとしている。 確実に食べすぎだと思ったけど、たまにはこんなのもアリなんだろう。 050320*チョコレート編,終幕 かなり昔に書いたやつを書き換えたものです。 萌が足りないと思った。これでも明るくしたつもりです。 |